連載 社会思想史の旅・8
ドイツ観念論と市民社会
田村 秀夫
1
1中央大学経済学部
pp.37-41
発行日 1969年6月1日
Published Date 1969/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663906188
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フランス革命とドイツ
1789年のフランス革命の勃発は,隣国ドイツに深刻な影響を与え,とくに多くの知識人たちは革命の理念に共感を覚えていた。たとえば,ゲーテとともにドイツ古典文学を代表するシラーは,シュトウットガルトで多感な学生生活を送った時期に,フランス革命の思想的源流となったルソーの頌歌を書いており,その精神は1781年に匿名で発表された『群盗』にみなぎっている。ヴィーンのある新聞は,彼に革命的精神の父というレッテルを貼った。だが,1792年のフランス革命議会において市民権を与えられた彼は,現実の革命の過程に失望し,『新世紀の始まり』という詩では,「自由は夢の国にのみ住み,美は詩人の歌にのみ生きる」と歌っている。「シラーは幸運にも民衆の友とみなされていたが,これはここだけの話だが,彼は私などよりはるかに貴族的だった」と,晩年のゲーテはエッケルマンに語っている。ではそのゲーテ自身の自由と革命に対する態度はどんなものであろうか。そうした問題をかかえながら,彼の足跡を辿ってみよう。
「1749年8月28日,時計が正午12時を打ったとき,私はフランクフルト・アム・マインで生まれた」とゲーテは,自伝『詩と真実』で語っている。彼の生家は,中央駅の前からカイザー通りを進み,カイザー広場に出て,右側のベトマン通りの裏,グローセ・ヒルシュグラーベン通り23番地である。
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