連載 社会思想史の旅・10
産業革命と空想的社会主義
田村 秀夫
1
1中央大学経済学部
pp.53-57
発行日 1969年8月1日
Published Date 1969/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663906216
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ブラック・カントリー
機械制大工場工業の確立をもたらした産業革命の開始期に,自由主義経済学の基礎を築いたアダム・スミスが主著『国富論』を出版した1776年,新興工業地帯の中心地の一つであるバーミンガムの新聞「バーミンガム・ガゼット」紙は,つぎのような記事を3月11日の紙上に掲載した。「過ぐる金曜日にワット氏の新しい原理にもとづいて組み立てられた蒸気機関が……ブルームフィールド炭坑で試運転された。……このきわめて奇妙な強力な機械の試運転をみようと好奇心をそそられていた多数の科学的素養のある紳士の列席のもとに。……この実例によって,実験しない者の疑いもとけ,この発明が重要かつ有効であることが最終的に決定された。……永年の研究と種々の高価な,熱心な実験ののちに……ワット氏によって発明されたのだ」。
グラスゴー大学の数学器具製作者として蒸気機関の原理を考案したジェイムズ・ワット(1736-1819)は,特許申請のためロンドンへ出た帰途,バーミンガムに立ち寄り,ボールトン・フォザーギル商会の金物工場の組織と技術に感心し,1775年,共同でボールトン・ワット商会を設立し,この発明を完成した。ブラック・カントリーと呼ばれる工業地帯の中心をなすバーミンガムの心臓部にある市庁舎の横に,アレクサンダー・マンロー作のワット像が,彼の業績を讃えている。
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