連載 人間と教育・17
センスのよさ
上田 薫
1
,
加藤 由美子
1前都留文科大学
pp.326-327
発行日 1994年5月25日
Published Date 1994/5/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663900832
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センスのよい人とわるい人とがある.ふつうセンスがよいというと,趣味が洗練されているとか現代的感覚があるとか考えるが,私がここでいうのは,こだわりをもたずバランス感覚があるというか,自由で主体的で柔軟強靱だというか,人間のそういう基本的な生き方である.決して自分を守ろうとはしないが,かといってどんどん注文を出して相手をリードしようともしない.まずは自然の流れにまかせて,そこから自分の出番をつくろうとする.そのやり方だと,決して無理をせず,しかも好機を確実にとらえるから,説得力が大きくなる.
しかしほんとうのセンスのよさは,相手を説得し思うように変えるだけでなく,それが同時に自分自身をも変えることになるということで発揮される.真のやわらかさはそこでこそ成り立つ.たびたびいう“裸になる”ということ,そのときの自分のありようもまた同様である.もちろん議論は納得のいくまで遠慮なくやっていい.妥協の必要はない.しかし相手との関係は,淡々としてどこまでも対等ということである.
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