連載 人間と教育・1【新連載】
つまずくことを大切に
上田 薫
1
,
加藤 由美子
1前:都留文科大学
pp.4-5
発行日 1993年1月25日
Published Date 1993/1/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663900507
- 有料閲覧
- 文献概要
わが人生を望み通りにしたいというのは,だれもが強く願うことであるが,それがかなわぬ夢であることもまた,それぞれに痛いほど思い知らされている.世に伝わる貴重な教訓に十分学び,一方科学の法則に忠実に即していても,なお計画がそごしてしまうのはなにゆえか.やはりどこかに努力の至らぬ点があるのか,それとも人生はしょせん運に左右されて手のほどこしようもないものなのか.もし運命にもてあそばれるだけとあれば,それこそだれもがまともな生きかたを断念することになりかねない.
学校のテストには百点も零点もあるが,人間の生きかたには,完全な成功も完全な失敗もない.成績よく順風満帆で来たとしても,それが続く保証はない.逆につまずき絶望していても,いつか立ち直れる日は来る.なによりもまず不幸なつまずき自体が飛躍の礎になってくれる.いやそれだけでなく,失敗と思う生きかたに内実がこもり,成功を自負するなかに空虚がひそむということも珍しくはない.人生の,したがって人間の奥底にあるものには,外見や一時の感情によっては決して触れることができぬというのが,動かしがたい真実なのである.
Copyright © 1993, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.