連載 人間と教育・18
道徳を生きた人間のものに
上田 薫
1
,
加藤 由美子
1前都留文科大学
pp.406-407
発行日 1994年6月25日
Published Date 1994/6/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663900849
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人間というものは意志が弱いから,どうしても道徳による規制が必要だという.一般的にいって,たしかに自己規制の力には問題がある.あくまでも自主自律でと思いながらも,やはりそれには限界があるから,道徳の力にすがらねばならぬことが多い.でも道徳の要求がすこぶる明快で厳格をきわめるとなると,だれもがとことんそれに従えるものかどうか.規制される側にも言い分はあると言わねばならない.
正直・親切を初めとする徳目は,どこまでも人間に徹底実行を迫るかにみえる.しかし完壁な正直とは親切とはいかなるものか.すくなくとも生身の人間は,どこまでどうできるか疑問と言わざるをえない.それに本人が完全だと思っただけではむろん困る.といって,だれに評価してもらえばよいのであろう.権威者の声か,世間の批判か.とにかく複雑な事態に立ち入ってまで相談に乗ってくれる人はいない.もしどんなに努力しても,なお怠慢不徹底と責められたらどうする.いや多くの場合,徳目は人間に対してそのような切り捨てご免を平然とやってのけているのである.
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