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はじめに
新しい企画を立てたり、現状の何かを改善したりしようとしたときに、チームメンバーから「そんなことして責任は誰が取るのですか?」「私にはできません、無理です」「したかったら提案した人が勝手にどうぞ」「そこまでしないといけませんか?」という代替案のないネガティブな発言に心が折れたり、やる気を削がれたり、「もうこの職場を改善することは無理なのではないか」と諦めたくなるような経験はないでしょうか?
また、同じ意見でもAさんが言うと賛成し、Bさんが言うと反対するというような、意見に対しての賛否ではなく、人に対する賛否になっていたり、1人の教員が別の教員の発言を否定するような内容を学生に伝えたり、学生から好かれることをゴールにしていたり、逆にうまくいかなかったことを学生の態度不良や学力不足のせいにして責任逃れをしたり、といった場面に出くわしたことはありませんか?他にも問題行動を注意したら逆ギレして「パワハラですよ」「訴えますよ」と凄んできたり、「自分はこれだけしんどい思いをしているのに、〇〇さんだけラクしていてずるい」「ほかの学校は〇〇なのに、ここの学校がおかしい」とか、問題が発生すると「ここの学校はいつもそうだから」と自分ごととして考えておらず、自分がまるでこの組織の外にいる立場であるかのような発言に悩まされたりしていませんか?
これらの症状が見られたら、その職場には何らかの改善すべき課題があり、目的思考で活動ができておらず、チームの心理的な安全性が侵されている状態なのかもしれません。職場での心理的な安全性を望まない人はいないはずなのに、どうして現実の職場では、すべてのメンバーにとって心理的な安全性を確保するのが難しいのでしょうか?
看護教育の現場では、教員不足が慢性化しており、教員による学生へのハラスメント問題が発生し、教員や学生の体調不良やメンタル不調、教員職の平均年齢の上昇、モンスターペアレントからのクレーム、受験生の減少、倍率の低下、合格者の偏差値の低下、コロナ禍で高校生活を過ごした学生の生活・社会体験の少なさによる退行など、抱える問題は尽きません。これらの問題も心理的安全性の低下と深くつながりがあるのかもしれません。
現代の若者は、VUCA(Volatility 変動性、Uncertainty 不確実性、Complexity 複雑性、Ambiguity 曖昧性)の時代といわれている複雑な社会を生き抜く力が必要とされています。情報化社会やコロナ禍ですでに私たちが経験しているように、学識者、経験者、役職者が必ずしも最初から最も適切な正解をもっているとは限らず、1人ひとりが自分の頭で考えて本質を見抜いていく力が求められています。このような現状のなか、看護基礎教育が果たすべき社会的役割は大きく、看護師を目指そうと考えた若者の人生に価値ある学びの機会を提供し、人間としての成長発達と看護師として考えられるよう支援をすることは、教育現場にいる者の重要なミッションであると考えます。本校では、そんな時代と社会背景をふまえ、組織改革と教育概念のパラダイムシフトに取り組んでいるところで、そのなかから得られた看護基礎教育現場での心理的安全性についての視点を本稿で述べさせていただきます。
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