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はじめに
身近な話からさせてください。ご存じのように,2014年6月25日に公布された改正職業安全衛生法では,新たに「ストレスチェック制度」が設けられました。省令とともに示された指針では,「職業性ストレス簡易調査票」(57項目)を用いることが望ましい,と述べられました。2015年12月1日施行の同法にしたがい,筆者の勤務大学では,早速に,契約業者から電子メールが届きました。ここをクリックしてストレスチェックを受けてください,10分程度で終わります云々,と。確か,高ストレス者に該当したら,医師の面接指導を受けねばならないはず。きっと自分はそうなる,そうなったら煩わしい……と思って避けていました。ところが,忘れたころを狙い澄ましたかのように,督促メールが届き続けるのです。
それがストレスになってきました。督促メールの存在自体が「ウザい」と嫌になって,3年目の2017年11月,ついに受けてみました。結果は,「総合的に判断して,あなたは高ストレス者に該当しませんでした」。安堵しつつ結果表を見てみると,高ストレス者に該当しないためには,①職場の人間関係が良いこと,②仕事の裁量性が高いこと,の2点が重要となるようです。至極もっともであると思います。
しかし,回答しながら違和感も覚えました。なぜなら,①②に該当する質問項目群が,「学校・大学」や「教育」といったことの特徴を織り込んでいないからです。学校・大学という職場には,企業などと同じく上司・部下(的な存在の人間)や同僚もいますが,同時に,学生という立場を異にする人間もいます。彼らとの関係は「おとな同士」と同じとはいかず,「教育的」でなければならないがゆえの難しさがあり,したがってしばしばストレッサーとなっています。
ところが,チェックテストは学生の存在を想定していません。また,一般的にいって仕事の裁量性が高いことは良いことですが,さまざまな観点からの配慮が教員のデフォルトとなった現在,何を規準に学生を指導し評価すべきなのか自体も,ストレッサーとなりがちです。しかも,裁量性が高いということはそれだけ教師の責任は重いのだ,という厳しいまなざしは,自己だけでなく同僚に向けることにつながり,そうした要求水準に適っていない(と思われる)同僚の存在が,ストレッサーになったりします。
学校・大学という職場に勤める教員─看護教員にせよ,それ以外の教員にせよ─の仕事には多くのストレスがつきものです。ただし同時に,教育・研究や学務に全力を注ぐと何だか達成感もあり,「いやぁ〜もうホント,大変でね〜」などと,ついつい「病気自慢」ならぬ「ストレス自慢」をしてしまいがちです。しかしこれでは,遠からず爆発状態がやってきます。
どうすれば少しでもストレスを軽減できるのでしょうか。本稿は,この問題を考えていきます。そのためには,「学校・大学」や「教育」といったことの特徴を少し掘り下げながら進んでいく必要があるでしょう。次の第2節では学生というストレッサーとその軽減方法について,続く第3節では同僚(や上司・部下)というストレッサーとその軽減方法について論じます。第4節では職場の長のリーダーシップの重要性と「ストレスフリーの場」について説明し,最後に第5節でまとめをします。
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