Medical Hi-lite
ストレス
田多井 吉之介
1
1国立公衆衛生院生理衛生学部
pp.50-51
発行日 1964年2月10日
Published Date 1964/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662203045
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■セリエ博士の述懐
昨年の11月,再度日本を訪れたセリエ博士は,10日間の同行の間,しみじみとわたしに述懐しました.「大衆の考えというものは,学者よりも10年もおくれている.わたしのストレス研究は,はじめの10年は学者の間では認められない茨の道だったが,それが認められると,大乗がそれを知るまでに,また10年かかった.そして,わたしが科学的に研究したストレスは,ゆがめられて,哲学的な意味になってしまった。ちょうど,保母が子どもに話すオトギ話のような」
たしかに,ちかごろは,毎日,ラジオ,テレビ,新聞をはじめさまざまのマスコミの記事やことばにストレスをいくども見かけます.そして,セリエ博士があれだけ努力して築きあげたストレス学説の本体が見失われてしまったのです.「なんでもかんでもストレスで説明するため,わたし自身がアンチ・ストレスの急先鋒に立たねばならなくなった.ちかごろは,そうストレス,ストレスと言うなと教えている?」こういうセリエ博士に,わたしもまったく同感でした.それは,わたしも,過去10数年間,ストレス学説をほんとうに専門的に研究したせいでしょうか.生半可の通をふりまわして,なんでもストレスに結びつけようとする医者のことばをきくと,いつもめんくらったのです.「ストレス学説って,そんなゴマカシではないのに? もっと厳密な科学なのに?」と.
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