増大号第2特集 看護学生・教員エッセイ─入選エッセイの発表
学生部門
【柳田邦男賞】A氏から教わったこと
西村 ちあき
1
1独立行政法人国立病院機構高知病院附属看護学校
pp.744-745
発行日 2015年8月25日
Published Date 2015/8/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663200286
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3年間の学校生活を通して,私が考える看護とは,患者の思いに添った看護ができているのかを常に考え,実践していくことである。この考えに大きな影響を与えたのは,私にとって最後の実習となった精神看護学実習での出来事であり,この患者との出会いが看護の原点である人とのかかわりについて考えるきっかけとなった。
私が受け持たせていただいたA氏は50代男性で,統合失調症の回復期にあり,糖尿病の治療もされている方であった。実習が始まった当初,私がレクリエーション活動に誘うと,「学生さんはそういうのせんといかんがやろう?じゃあ行くわえ」とポツリと呟くのみで,自分から何かをしようという意思が感じられなかった。いつも私に合せてもらっているだけで本当にA氏のためになっているのか,と無力さを感じ,そんな関係性のまま数日が過ぎた。私は精神疾患に対するかかわり方がわからず,検査値や身体症状で客観的に把握しやすい糖尿病に対する指導を行うことで関係性を築こうと試みた。A氏は糖尿病の治療食を残すことが多く,治療の必要性を理解できていないのではないかと感じた。私は「ごはんをもっと食べていただきたいのですが,なぜ残してしまうのですか?」と尋ねてしまった。そのときA氏は顔こそニコニコしているが,明らかに怒った口調で「食べろって言われて食べれるもんじゃない,俺はロボットじゃなくて人間やき食べれんことだってある。勉強してきなさい」と言われた。
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