第2特集 看護学生論文─入選エッセイ・論文の発表
エッセイ部門
【柳田邦男賞次点】忘れえぬ患者
山田 優子
1
1愛知きわみ看護短期大学3年
pp.690-691
発行日 2013年8月25日
Published Date 2013/8/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663102470
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私がこの患者を受け持ったのは,2年の最後の実習だった。患者は終末期であり,癌性疼痛に大変苦しんでいる時期だった。受け持ったのは2週間であったが,患者の行動は1週目から2週目にかけて大きな変化があった。なぜ,行動が変化したのか,看護学生最後のまとめとして,そして,4月から看護師になるという始まりとして振り返りたいと思う。
1週目,受け持ち初日に患者が語ったことは,今でも忘れることができない。患者のベッドの横には大きな窓があり,レースカーテンが引かれていた。患者は虚ろな表情で語り始めた。「レースカーテンは入院してから一度も開けたことがない。明るいと生きる希望をもってしまうから。生きる希望をもつと死ぬことが怖くなる。私は生きる希望をもつことが怖い」。患者は死と向き合って生きているのだと実感させられた言葉だった。返す言葉がなかった。
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