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はじめに
今日の看護を取り巻く複雑な社会情勢の下で,看護職には高齢者や慢性疾患をもつ人々へのケアの充実,高度医療を受ける人への支援,治療過程における人権の尊重,安全で安寧な看護の提供など,ホリスティックな質の高い看護実践能力が要求されている1, 2)。しかし,新人看護師の技術能力が未熟であるという現場からの指摘3),リアリティショックなどによる新人看護師の約1割が1年未満で退職する現状4),急速な大学数の増加に教育・実習現場が対応できていない5)などが報告され解決されるべき課題として提示されている。このような社会的な課題に応えるために看護基礎教育においては,看護実践能力育成のための質的・量的な充実が求められるようになった。看護職者の養成を行っている大学教育の立場から,2004(平成16)年には「看護実践能力育成の充実にむけた大学卒業時の到達目標」6)等が示された。一方,厚生労働省からは,2003(平成15)年に「看護師等養成所の教育活動等に対する自己評価指針作成検討会」報告7)等がだされ教育評価の実施が求められ,2008(平成20)年度の指定規則改定,2009(平成21)年7月の保助看法改正に至るまでさまざまな改革が継続的に進められている。
加えて,質の高い看護実践能力を持った人材を育成するということは,教育の質を保証することにつながり大学の評価にもかかわる課題でもある。教育目的を明示するためには,その教育機関の設置主体のもつ教育理念が重要な鍵になる8)と杉森が述べているように,教育理念はどのように教育を行うかを左右するものである。小野は看護教育を成立させる上で不可欠なのが臨床での実習9)と述べているように,看護実践能力の育成には臨地実習の教育効果をどのように評価し充実させていくかも大きな課題である。安彦は,授業を少しでも質の良いものにするために経営・管理過程と教育課程をつなぐものとして教育課程経営が注目される10)と述べている。大山は,評価指標はアウトプット(出力)の評価をもとにしてそれに対応する形で教育のプロセスやインプット(入力)を評価するというシステムが同時に考慮されなければならない11)と述べている。
看護実践能力の育成は教育目標に基づいた教育課程,教員の指導力,教育環境などさまざまな要因が相互に関係している。しかし,これらさまざまな要因の構造を明らかにしたものは少なく,看護教育を多面的,総合的に評価するために,看護系大学で取り組まれている看護実践能力育成のための教育活動の現状と課題を明らかにすることが求められている。
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