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はじめに
近年,保健医療福祉の発展に伴って社会のニーズは日々増大し,質の高い看護の提供やその基盤となる看護学教育の質の向上が求められている1)。また,少子化による学生数の減少や学生の資質の確保が今後さらなる課題となることが想定されており2),看護職が自他ともに認める専門職となるために,すべての看護職養成を高等教育機関としての看護系大学(以下,大学)において行われる必要性が示唆されている3)。このような社会環境や国民の意識の変化を受け,1992年に「看護師等の人材確保の促進に関する法律」が制定されたことにより,大学の新設が促進され,当時10校程度であった大学数は2008年現在167校に及んでいる。それに伴い,大学における教員数の確保および臨床に強い教員の確保,教育環境の整備への早急な取り組みが課題となっている。
一方,看護学教育における看護学実習(以下,実習)は,学生が理論と実践を統合しながら看護実践能力を獲得するための重要な機会となる。そして,実習の指導にあたる教員は,学習目的を達成するうえで重要な役割を担っている4)。しかし,看護学教員養成は体系化されておらず,看護師等養成所(以下,養成所)の教員養成を目的としたコースは各都道府県が開設し実施しているが,大学・短期大学の教員を対象にした教育プログラムは,近年,文部科学省が着手し始めたばかりである5)。そのため,大学には看護教員養成講習等を受けることなく,臨床看護師から教員へと立場を移行している者が多い。新設大学の増加に伴って新人教員が急増しているなか,実習指導において多くの新人教員が,学生の学習目的達成に向けた支援や学習環境の調整,さらには患者や医療スタッフとの対人関係の調整などを行うにあたりさまざまな困難に遭遇していることは想像に難くない。
実習指導で感じる困難の要因について,養成所の教員を対象とした研究はすでに多くなされており,困難の要因として「対人関係」「教授方法」「教師としてのアイデンティティ」「学生の質」「職務環境」などが報告されている4, 6─8)。しかし,大学の教員を対象とした研究は少なく9─10),実習指導における困難の要因を分析した研究は見当たらない。
そこで,本研究で大学の新人教員が実習指導において困難と感じたことから,困難の要因を明らかにし,その結果を基に新人教員への支援体制を検討することで,看護教育の質を向上させる一助になると考える。
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