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がまんのすすめ
前回は,幼少期の教育を概観しました。『国家』では述べられていませんが,『法律』では,教育を監督する者は「国家における最高の役職のなかでもとくに最も重要なもの」と述べ,「すべて成長するものにあっては,その最初の芽生えは,もしそれがうまくいけば,そのものが持って生まれたよさを充分に発展させるのに,最も力あるもの」だと,その理由をあげています。さらに,「人間はたしかに温和な生きものだとわれわれは認めるが,しかしながら,人間は,一般に正しい教育と恵まれた素質とを得てこそ,もっとも神的な,もっとも温和な動物になるのであって,もし不充分な,あるいは立派でない育てられ方をすると,大地の生みだすもののなかで,もっとも獰猛なものになる」(『法律』岩波文庫,上巻,p355)と付け加えます。モンスターペアレンツの話題につきない昨今では,「獰猛な子ども」が増殖しないことを祈るばかりです。
この「獰猛さ」とは,快さを求める心が抑制できない状態に他ならないのであり,逆に,「がまん」というのは,自己コントロールのことで,成長のためにはこれがとても大切です。マシュマロテストというある有名な心理学実験があります。これは,4歳児に対して,マシュマロを前にして,「いまがまんすれば,あとでこのマシュマロ2つあげるよ。いま食べたければベルを鳴らしてね。1つあげるよ」とか言って,実験者は部屋から出て行きます。15分くらいをがまんできるかどうかだけの話なのですが,その結果が人々を驚かせました。がまんできた子と,がまんできなかった子では,大学入試テストの成績にまで差があったのです。いまの欲望をがまんできるということは,生きる力でもあるのです。
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