Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
プラトンの『イオン』―病跡学の原点
高橋 正雄
1
1筑波大学人間系
pp.1364
発行日 2012年10月10日
Published Date 2012/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552103713
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紀元前399年のソクラテスの刑死から間もない紀元前390年代に書かれたと推測されているプラトンの『イオン』(森進一訳,『プラトン全集10』岩波書店)は,ソクラテスの言動を比較的忠実に伝えているとされる初期対話篇の一つであるが,そこには詩作をめぐるソクラテスの病跡学的な発言が記されている.
『イオン』におけるソクラテスは,詩人とはムゥサの女神から「神気を吹きこまれた人」であるという見地から,詩作と狂気の関係を次のように述べる.「叙事詩の作者たちで,すぐれているほどの人たちはすべて,技術によってではなく,神気を吹きこまれ,神がかりにかかることによって,その美しい詩の一切を語っている」,「抒情詩人たちもまた,ちょうどコリュバンテスの信徒たちが,正気を保ちながら踊るのではないように,同様に,正気を保ちながらその美しい詩歌をつくるのではない.むしろ彼らが調和や韻律の中へ踏みこむときは,彼らは,狂乱の状態にあるのだ」.
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