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はじめに
病理学は,医療系学生が初めて本格的に病気の本態に迫る科目である。解剖生理学で学んだ「人体と構造と機能」に,何が生じて患者が苦しんでいるのか,「疾病の成り立ち」を理解する基礎である。すなわち,看護教育においては「科学的根拠にもとづいた看護を実践できる基礎的能力」の根幹をなす。そういう理屈を抜きにしても,医療に従事しようという学生ならば,多かれ少なかれ疾病そのものに対する興味を抱くと思う。放っておいても勉強してくれそうな気もするが,壊死だの異型性だの馴染みのない用語が多く,とっつきが悪い面がある。難解な用語は,興味をもてないという学生にとってはなおさらネックになる。どうすれば病理学の重要性とおもしろさを伝えられるのか,試行錯誤が続いている。
筆者は病理医であるが,現在,4年制大学の看護学科の専任教員として病理学・病態学・解剖生理学等の専門基礎科目を担当している。過去に非常勤として看護学科の授業を担当していた時期から,何を講義するかは悩みの種であった。医学教育での経験だけでは,限られた時間数で教える内容を精選することが難しいのである。そこで「看護教育における病理学」について現状と課題を検討し,日本病理学会総会の病理学教育セッションで報告した。
現状を調査した過程で,最近は大学の独自性を出すため,カリキュラムの組み方がさまざまであることを実感した。まず「人体の構造と機能」と「疾病の成り立ちと回復の促進」の内容に,「解剖生理学」「微生物学」「病理学」といった従来の科目名が使われていないことが多い。「基礎医学(病理学)」「病態学(病理学)」「看護病理学」などはわかりやすいが,「病理学」という名称がない場合もある。「疾病の成り立ち」「健康障害の成り立ち」「病態生理学」「心身機構論」のなかに微生物学などとともに含まれているらしい。シラバスで確認できた例もあるが,病理学総論の内容が落ちてしまわないよう配慮が欲しい。確認できた病理学の単位は1~2単位で時間配分は15~45時間。病態学は15~60時間で,病理学の有無にかかわらず時間数はさまざまであった。
学会では看護学科で講義している病院病理医から質問や意見を多数いただいた。先輩からの引き継ぎで断りきれず,忙しい業務のなかで初めての講義の準備に困惑している病理医など,同じ問題をかかえている病理学担当者は多かった。
そこで本稿では,病理学の授業展開について,前半では2009年施行の新カリキュラムでの変更点を中心に総論的に考察し,後半では筆者が行っている授業内容の現状報告と今後の可能性についてできるだけ具体的に紹介した。
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