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はじめに
数年前から関係法規の講義の機会を得ている。安全教育は,現行カリキュラムの中では基礎看護学や看護管理で扱われていることが多いが,「医療事故」に関しては,1987年改正カリキュラムの「関係法規」の項に「医療過誤」が入り,その重要性が示唆された1)。しかし,関係法規では法学の講義になりやすく,難しいという印象が強かった。そこで臨床に近い内容で,問題解決型思考を考慮した授業構築を試みた。それは,学生へ「気づき」と「注意の喚起」を促すことを目的としたインシデント分析である。
今回はグループワークで発表した内容を,指導者と学生という関係に着目し,P-mSHELLモデル2)を活用し,整理をした。本来このモデルは事故分析に使用するものであるが,「人間が最適な状態を保つための要因」3)を分析するものと捉え,学生のインシデント対応策に活用した。
学生は,法律上は無資格者である。臨地実習で教員や指導者の下に,「療養上の世話」を実施しているが,実習上のミスについて,学生であっても成年に達している成年者は,一個人としての責任を問われる時代が来るものと思われる。学生自身が,認知・判断の段階で発生するミステイクか,動作の段階で発生するスリップか,自己の間違いに気づくことは難しい。学生の頃から自らがヒューマンファクターになり得ることを自覚する必要があり,教育する側もヒューマンファクターの存在を認識する必要がある。
ヒューマンエラー防止対策として,航空界で行われているCrew Resource Management(CRM : 乗務員人材管理)の目的は,「利用可能なすべてのリソース(情報資源)を,最適な方法で最も有効に活用することにより,クルー(チーム)のトータルパフォーマンス(出力・能力)を高め,より安全で効率的な運航を実現する」という考え方であり,事故を未然に防ぐ対策として,パイロットからの情報収集・分析をしている。これはヒューマンエラーを責任問題から切り離して捉え,小さなミスでも報告するように義務付けているもので,「特に事故例に学ぶということは,それを目の当たりにして事故の恐ろしさを知ることであり,この気持ちは人の身と心を引き締め,慣れや気のゆるみから引き戻してくれる役割を果たす」4)というものである。
昨今,医療界では「失敗から学ぶ」「人は間違うもの」という言葉があるが,安易さへの危険も感じる。やはり命を扱う者として,ヒューマンエラーは極力回避したい。
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