特集 保健活動と公共性—公的責任の現代性
現代社会の公共性
深谷 昌弘
1
1慶応義塾大学総合政策学部
pp.258-263
発行日 1997年4月10日
Published Date 1997/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662902852
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はじめに
ドイツの社会哲学者・ハーバーマスによれば,古代アテネの民主制に淵源をもつ《市民的公共性》の概念は,勃興するブルジョワジーたちが君主の統治に対抗する概念として成立したという。しかし,この規範的概念は大衆民主主義の進展過程で変質し,その本来の機能を喪失する。現代社会のさまざまな政治的矛盾の克服にとって,現代にふさわしい《公共性》を構築することがわれわれ市民の精神史的課題となっている。
現代社会において,国家と市民との調停困難な関係を集約的に象徴しているのが社会保障ないし福祉国家の問題である。社会保障が提供する財貨・サービスは,国防・外交,司法・警察,道路・港湾などの古典的公共財とは異なり,市民1人ひとりの生活を支える私的財である。伝統的区分に従えば,個人生活は明らかに私的領域に属する。その生活に公共政策が今日のように大きく関与するようになったのはいかなる事情によるのか。また,このことが正当性をもちうるとすれば,それはいかなる論拠からか。さらには,そのような正当性にかなった社会保障や福祉社会のあり方とはどのような原理・原則をみたすべきなのか。本稿では,こうした現代の福祉に関わる一連の問題を《公共性》の視点から検討する。
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