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はじめに
いま,自ら考え,現状を正しく認識し将来を予測することのできる保健師が求められており1),現代の保健師教育は,各教育機関の教育理念に基づきオリジナリティ豊かな内容で進められることが期待されている。本学においても,地区診断ないしは地区把握(以下,地区診断とする)を保健師教育の根幹ともなる重要な内容であると位置づけ,教育理念に基づいたオリジナリティ豊かな内容で授業を展開するべく試行錯誤しているところである。
中村2)は,保健師教育において地区診断は,地域看護活動を展開するための基本となるものであり,いかに地区診断が的確にできるかが地域看護活動の質に関わってくると述べている。平山ら3)は,保健師の活動は一定の地域内に住むすべての人々の健康生活を守ることにあり,その活動の対象は「そこに住む人々の生活の営みに注目し,生活集団としてとらえる」ことが必須であるとしている。
保健師は,特定の地区に暮らしている生活者としての住民を,個および集団として把握し,データ分析,五感を使っての地区踏査,インタビューなどによって地域特性や地域が抱えている健康上の問題をアセスメントする。看護診断のもとになる情報の収集と分析,すなわち臨床看護におけるアセスメントに相当するのが地域(地区)把握であり,わが国では,地区診断,地区踏査などの呼び名で行われている4)。学生は地区診断を学んだうえで,ヘルスプロモーションの考え方5,6)を基盤とし,健康増進・健康上の問題の解決に向けて住民を支援し,エンパワーしていく方法を学習していく。
その最も根本になるのが学生の地区を見る目を養うことであり,そのため本学では地区診断を保健師教育の根幹ともなる重要な内容であると位置づけているのである。海外の先行研究においては,大学教育のなかで数か月を費やした実習の教育プログラムの成果7)が報告されている。しかし,本学の実習期間は,大学平均8)を確保しているものの,他養成機関に比べ短い。また,「地区を見る」ための方法論や視点は,金川ら9)が地区視診という言葉で統一し,確立化に取り組んでいるが,いまだ明確とはいえない。このような限定された条件のなかで,学生に地区診断の基本を理解させるために工夫した教育方法の1つが,今回取り上げる演習である。
本演習は,開始後3年が経過したが,この間担当教員の交替もあったため,ここでは平成12年度における実施内容および学生の課題レポートからの感想などの抜粋をもとに,本演習の学習成果と今後の課題について述べたい。
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