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1.はじめに
遺伝子診断は,疾患に特異的な遺伝子やゲノムの変化を検出し,疾患を診断することである.国際ヒトゲノム計画の完了によってもたらされた臨床的に有用な発見のうち,単一遺伝子異常に関する知識は,単一遺伝子疾患の診断と治療を改善し,いわゆるgenetic medicineという分野を発展させてきた.その後の生命科学の進歩は,健康や病気に関連する全ゲノムと環境因子などの相互反応を解明しつつあり,多因子疾患である生活習慣病の新しい診断・治療の方法を実践するgenomic medicineの時代の到来が予想される.また,病原体の核酸検査による感染症の遺伝子診断は日常診療で実施されている.遺伝子診断では,遺伝子やゲノムに関する情報を得るための検査法や技術が必須であり,遺伝子診断の進歩は,新規の解析技術や検査キットの開発と臨床応用なしには実現不可能である.
遺伝性疾患の場合,発症に関連する遺伝子変異の種類に合った適切な解析技術を使用することが正確な診断のために重要である.発症機序の解明が進んでいる単一遺伝子疾患では,遺伝子検査が利用可能な疾患の数は年々増加し,Gene Tests databaseでは2011年に2,500疾患を超えている(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/projects/GeneTests/static/whatsnew/labdirgrowth.shtml).一方,これらの遺伝子検査サービスを提供している検査室の数は2005年以降600で一定している.社団法人日本衛生検査所協会が実施したアンケート調査によれば,受託した遺伝子検査のうち,“単一遺伝子疾患の診断に関する遺伝子検査”は,4,082件(2001年)をピークに,2010年の調査では2,645件であった(表1).
単一遺伝子疾患であっても,表現型と遺伝型の相関はかならずしも1対1ではない.すなわち,同じ診断名(表現型)であっても遺伝子変異は同じでなく,人種や家系によって,原因遺伝子の遺伝子変異に違いがみられる場合もある.さらに,多因子疾患である癌や生活習慣病では,それぞれの遺伝子多型の寄与度に差があるため,検査対象の遺伝子多型の種類が異なることによって疾患リスクの診断予測が一致しない場合も報告されている1).
本稿では,遺伝子診断の進歩を解析技術の進歩から解説し,単一遺伝子疾患の診断のみならず多因子疾患のリスク診断など,個別化医療を目指した日常診療で遺伝子検査を活用する場合の課題について述べる.
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