1さつの本
—山本 茂雄 編—水俣の証言と住民運動"愛しかる生命いだきて"新日本出版社
内田 敏枝
1
1下関市立保健所
pp.295
発行日 1974年4月10日
Published Date 1974/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662205469
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水俣病訴訟において,書証として提出された患者家族の供述録をまとめたものである。公害が世に叫ばれだして,これまで富山のイタイタイ病,四日市喘息,森求ヒ素ミルク中毒……など大きくとりあげられ,企業の利潤追求第一主義がもたらした悲惨な実態をテレビ・雑誌などで見て大きな憤りをおぼえたものである。本書はまた患者,家族の苦しみ,公害のあまりの無残さを,私の脳裏にたたきつけられた思いである。水俣病訴訟弁護団は,患者家族が,水俣病によって受けた被害の実態を明らかにするために,患者家族の世帯ぐるみの実態調査を1年近い月日と多くの人々の協力で行なっている。患者の発生は,昭和17年に始まり46年まで,実に30年間も続きしかも放置されているのである。
編者は言う。"不知火漁民は海をチッソに奪われ汚され続けたために,生活の手段を失った,漁は獲れず,獲れたとしても売れなかった。まして患者を出した漁民,家族の生活は悲惨の一語につきた。収入の道はなく,もだえ叫ぶ患者をかかえてつききりの看護が必要となった。家庭は完全に破壊され家族の生活は奪われてしまった。チッソは勿論,国も自治体も少しも暖い手をさしのべようとはしなかった。生活に追われついに毒と知りつつ魚をとって食べた。飢え死にする訳にはいかなかった。一家に患者は次々と出た。一家中で中枢神経を破壊され健康な肉体を奪われた。一家でより軽い病人がより重い病人を看護した。
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