- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
読者の皆様は「いまになってなぜ水俣病のこと?」「水俣病のことはみんな知っているでしょう?」と思われるでしょうか。公衆衛生教育のなかで,水俣病は環境と保健に関する代表的な疾患の1つとして取り上げられ,誰しもが公害病の1つとして水俣病を挙げ,その原因が有機水銀であるということは知っています。しかし,それ以上のことはいかがでしょうか。いまさら,水俣病についてこれ以上のことを知る必要はないのでしょうか。
これから12月号までの連載が,今まで知らなかった水俣病のことを知り,住民の生活基盤となる大気や水を守ることができる保健師活動の重要性をあらためて認識し,誇りをもって保健師活動を実践していくための一助となれば幸いに思います。
私の出身は九州の福岡です。水俣病の報道は幼い頃から日常のなかで耳にしていました。中学の頃,あることをきっかけに胎児性水俣病の坂本しのぶさんとの出会いがあり,以後,「水俣病と関わる仕事がしたい」と思うようになりました。
その後,保健師となり福岡県久山町に入職しましたが,地理的な距離もあり,水俣病との関わりをもつことはありませんでした。大学の研究職について15年あまりが過ぎようとしたとき,「水俣病が発生した時の保健師活動が知りたい」と思い,水俣病関連の本を読みました。しかし,私が手にした範囲ではそこに「保健師」の文字は出てきませんでした。「保健所」「保健所長」の文字も,発生当時の部分には記載がありますが他にはまったくと言っていいほどありません。世界を震撼させた水俣病と保健師の関わりがなぜ記載されていないのだろう,保健所が関わっていただろうにと不思議に思いました。
そして,水俣病に関する書物を読むなかで,数々の驚きがありました。戦争や原爆投下と同じくらい,日本人として,そして医療職に就く者として知っておく必要がある事柄が多々ありました。今回は,その驚きのほんの一部と,水俣病に関する施設などを読者の皆様にご紹介することで,水俣病に関心をもっていただくことを期待しています。今後の連載をとおして,「まだ終わっていない」と耳にする水俣病に対して,また,今後起こるかもしれない同様の健康危機に際して,保健師は何ができるのかを読者の皆様とともに考えていけるといいなと思っています。
Copyright © 2012, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.