あなたのなかの現代
無自覚な殺人者—水俣公害をめぐって
鈴木 均
pp.126-127
発行日 1970年8月1日
Published Date 1970/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661914993
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無動機の殺人が行なわれる。国電のなかでフト刺されたりする。動機はあっても人間の殺害につながる必然性はない非動機の殺人が行なわれる。カッとなって刺したりする。こうした“フト殺人”や“カッと殺人”の加害者は,人間を殺傷することをあまり重くみていない。それよりも,彼らの心のなかの感情の動きのほうを優先させている。殺人の動機が,相手との関係のなかで生じるよりは,むしろ,自己の内部で生じる。主観的な殺人である。防ぎようのない殺人である。
この種の殺人とは,全く対遮的な殺人がある。殺意のない殺人である。殺意がないから殺人だという自覚もない。「人が死んだ」といっても,「殺された」とも思わないし,「殺した」とも思わない。厄介な殺人者なのである。公害による殺人である。
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