世界の保健・医療制度/過去・現在そして未来……
医療概論=Ⅱ 近代医療の過程
田中 恒男
1
1東京大学・医学部保健学科
pp.888-892
発行日 1973年8月10日
Published Date 1973/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662205340
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受療までのプロセス
先に触れたように,受療を決定する基本的要因は,健康に異常を認める本人にかかわっている部分が大きい。いわゆる動機づけの過程においては,その本人の価値観が大きく影響し,その背景として,その社会の文化的条件が関与する。健康問題にかかわる知識体系もその一部であり,信仰も当然この部分において関与している。何が正常であり,何が異常であるかは,その生活する社会の価値が決定するものであるが,それを受けて健康に障害をもつ個人の心理的機序が受療の妥当性を定めるのである。
1例をあげれば,今日,米国においてマリワナ(大麻)の吸煙はきわめて一般的となっている。マリワナを流行させたきっかけは,すでに知られるように,米国社会の異常性であるかもしれないが,一般の薬物嗜癖のように習慣性がなく,かつ毒性も少ないということが明らかにされてから,急速な流行をみたものである。もっとも,習慣性や毒性の点について,今日でも異論がないわけではない。また,旧価値観からは,こうした薬物にたよったいわゆるインナー-トリップに対して,かなり強い非難があることも事実である。しかし,今日の米国の一般的な了解は,マリワナ喫煙に対してきわめて寛大なように感じられる。この事実は,やはり価値体系の変化という点に理解を求めなければならないであろう。
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