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"神をおそれぬ"人間を許すのか
久米 茂
1
1深夜通信
pp.288
発行日 1973年4月10日
Published Date 1973/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662205273
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この世には,人をおそれぬ人間というものがたしかにいる。いや"神をおそれぬ"人間といいかえてもよい(この場合の神とは,宗教的な存在を必ずしも意味しない)。その人間は殺人という最高の暴力を,天下公認のもとにふるいつづけ,そして底知れないカネをふところにしている。そして彼は平凡なわれわれの日常的な想像力をもたず,そしてきわめて鈍感かつ厚顔でどん欲で,わたしやあなたの〈現在〉も〈未来〉も奪いつくすものである。
水俣市におけるチッソという企業がそうである。島田という男を先頭とするこの経営のスタッフは,銃弾や原爆を製造する人間,またそれを使用する人間よりもっと冷酷で残忍な存在かもしれない。かれらが相寄りなにごとかを企案して実行にうつすとき,幾百幾千のわたしやあなたをひとひねりにしてしまう。いやそうではなくゆっくり時間をかけてねっちりと殺していく。しかもその黒く光った手は,わたしやあなたの次の世代にも容赦なく及ぶのである。無気味とも奇怪ともいいようがなく,戦慄するのみである。法も権力も指一本ふれることのできない,いわば魔王的存在である。
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