インターホン
法は知らざることを許さず
一色 ヤエ子
pp.55-56
発行日 1962年9月1日
Published Date 1962/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611202408
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最近あつた一つのケースを書いて見ましよう.無智と貧しさは悲しいもの.
○子は病気があつた.13の時他家に子守に出た.ある日背に子を負いながら町をとぼとぼ歩き回つた.乳児が乳を欲しがり家に帰ろうとしたがどうしたことか家に帰れない.○子は泣きながら歩きつづけるうちに日は暗くなつてくる.家では子守が帰らぬとみんなでさがした.夜の11時近くやつと見つけられ,家につれ帰られた○子は,身も心も疲れ物いう気色さえなくへたばりこんでしまつた.この時から彼女には毎月1〜2回のテン癇発作が現われたと○子の母はいうのである.発作の後は阿呆のようになつている.その○子が2度目の結婚をした.その日くらしの生活である.そして妊娠した.私のところにはいつも母親がついて「子供は何ともありませんか.診て下さい」とやつて来た.そして大丈夫だと安心して帰つて行く.病気と分娩が同じにくると大変だと思つたが幸いお産は軽かつた.一年中で一番寒い2月はじめ雪がちらちら降る.2〜3日前から腹が痛むからきてほしいと連絡あり,夕方家に行く.6畳一間2〜3日前より腹が痛いというのに何の準備もない.脱脂綿は?まだ買ってない.湯タンポは?ない.赤ん坊の着物は古いのが一揃そろえてある.湯沸のかま,2人着の小さいのが一つ.助産婦が行くと,近所の人ができるのかと集つてくる.面白いものでそれから旅は道づれ世は情,一つ一つ無いものが集まつてくる.
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