連載 保健指導を科学する・5
保健婦活動の事例をもとにした社会学,社会心理学,臨床心理学的な考察
保健指導の考えかた
田中 恒男
1
1東大・医学部保健学科
pp.79-80
発行日 1966年6月10日
Published Date 1966/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662203682
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小企業や零細企業の従業員の健康管理くらいむずかしいものはない.第1に企業体にほとんど経済的な余地がない.第2に従業員の交替がはげしい.第3に健康管理に専従する職員がえられない.こうしたいくつかの悪条件がつみ重なって,健康管理は全くの野放しに近い状態である.労働基準法も,労働安全衛生規則も,特別な予算措置でも組まない限り強制力がない状態である.そしてまた,労働環境の上からも,作業条件の面からも問題はむしろ大きいとみてよい.このような矛盾は,保健関係者にとって大きな悩みである.こうした企業体が,最近医療面の保障を中心に,政府管掌の健康保険をはなれて組合をつくり,いわゆる総合健保のスタイルをとるようになった.こうした場合,ややもすると保健施設活動の名のもとに,いわゆる予防活動が展開されるが(現実にいくつかの総合健保では,結核,成人病,胃などの集検や患者管理などが行なわれている.)その組合が保健婦を雇用し,実務を担当させている場合が少くない.しかし,ここでしばしば混乱するのは,保健施設活動と,企業体の責任における衛生管理・健康管理活動との混同である.そしてまた,保健婦は本来,どんなあり方が好ましいのか,という問題である.
冒頭から,どうもまわりくどい表現で長たらしく今さらのことをのべたのは,実は,この筆者の悩みの遠流はこの問題に関連するのではないかという気がするからである。
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