医療保障講座第8回
わが国の社会保障のあゆみ—社会保険の若干の改善と医療保険の後退
吉田 秀夫
1
1法政大学
pp.69-72
発行日 1964年6月10日
Published Date 1964/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662203140
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社会保険の改正と創設
朝鮮戦争を契機として,わが国の政治や経済が大きくかわった.産業は当然のことながら軍事生産を復活し,それをひろげ,警察予備隊をふくむ再軍備強化がとられた.レッドパージなどによって労働運動にたいする強化がきびしくなり,そのほか政治的社会的事件が相ついで発生した.下山事件,三鷹事件,松川事件などはこのころである.占領中のもっとも暗い時期であった.たしかに経済的には一部の産業は特需景気といって好況にみまわれたが,中小企業や国民の生活は苦しかった.こうして1951年(昭26)秋サンフランシスコ対日講和条約が成立したのである.
さて,そののち53年から54年にかけて社会保障の歩みのなかでいくつかの改正や新しい制度の創設がなされたことを簡単にふれないわけにはゆかない.その一つはそれまで死物化していたといわれていた厚生年金保険の大改正ということである.改正のきっかけとなったのは,炭鉱や鉱山で働いている抗内夫が54年から養老年金の支給がはじまるからであった.改正の審議に3年もかかったが,内容的にはとうてい先進国のそれにははるかに劣るものでしかなかった,20年間かけ金をおさめて,男子60歳,女子55歳(5年延長になった)からわずか月3,500円ていどの年金を支給するというものであった.
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