医療保障講座第4回
わが国の社会保障のあゆみ—国保の創設 戦時中の社会保障
吉田 秀夫
1
1法政大学
pp.69-72
発行日 1964年2月10日
Published Date 1964/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662203051
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国保創設の社会的背景
世界史のなかで1929年アメリカのウォール街の株の大暴落にはじまる世界大恐慌-1933年まで荒れ狂った一時を無視するわけにはゆかない.この恐慌をバックにして,アメリカにはじめて社会保障法(ソシァル,セキュリティアクト)が,ルーズベルトのニューデール政策とともに登場した.わが国も多くの会社,工場がつぶれ,とくに農村の不景気はひどかった.この時期に政府が考えたのは,古くさい恤救規制を衣がえしてようやく救貧法なみの救護法だけであった.それも昭和4年に国会で成立したが,緊縮財政のゆえをもって実施が延期され,当時の方面委員が「陛下の赤子200万の今更に餓死線上に彷徨するを見るに忍びずここに速かに救護法の実施」をせよという天皇への上奏請願を通してやっと昭和7年に実現をみるにいたったのである.これは費用の半額を国家負担とすることにより国家の義務としてみとめ,救護の種類も生活扶助,医療,助産,生業の五つの扶助にし労働能力のあるものは除外し,極貧層のみを対象にした.これをうけると公民権がはく奪された.労働能力のあるものをのぞいたために昭和11年に医療保護法を翌年に母子保護法をつくって別個の制度で救済しなければならなかった.疾病と貧困とが悪じゅんかんすることはいうまでもないことである.
農業恐慌は,満洲事変をおこした.
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