医療保障講座第7回
わが国の社会保障のあゆみ—新医療費体系と保健医総辞退
吉田 秀夫
1
1法政大学
pp.69-72
発行日 1964年5月10日
Published Date 1964/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662203120
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医薬師業の再燃
わが国の医療制度の歩みのなかで,特異な政治的社会問題として数十年の長きにわたって紛争してきた問題に,医薬分業があった.医薬分業ということばは,医師と薬剤師がそれぞれ分業形式で業務をするというのであるから,一見なんの変哲もないあたりまえのことであるが,事実はそうでなかった.多くをいうことができないが,つまりは薬の調剤権をめぐる紛争であり,法律をもって医師の調剤を禁止するかしないかということが争点であった.発端は明治7年の大政官通達,民制の発布にまでさかのぼる.この民制には「調剤は薬剤師の仕事である.しかし当分のあいだ医師も調剤してもよろしい」と定められていた.この当分のあいだというのが,明治がすぎても,大正がすぎても,戦前の昭和がすぎても当分のあいだで薬剤師の方はおしきられていた.だから医師,薬剤師にとっては,まさに先祖代々の宿命的なもめごとであった.しかしいまもそうであるように,いかなる時代でも医師会のほうが薬剤師会よりも政治的に力があったようである.医師の調剤を法律をもって禁止するということは成功しなかった.
なぜこの医薬分業といった古くさいことをここでもちだすのかといえば,昭和39年の現代においてまたもむしかえされてきたからである.
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