特集 病気とはなにか
随筆
病気と私
人間社会の健康とは
古在 由重
pp.30-31
発行日 1968年12月1日
Published Date 1968/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661914228
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もしいままでのわたし自身の病気についてしるすならば,それはただ病歴の記録にすぎなくなってしまうだろう。この歳まで,わたしもまたいろいろな病気をしたし,いまもなおそうである。ちいさなものは別としても,数回の肺炎をはじめ糖尿病,腎孟炎,自然気胸,高血圧症など。その回数はけっしてすくなくない。最近はかなり楽になったけれど,この1年あまりなやまされたのは,腰椎変形症による腰と脚との痛みだった。あるときには家のなかでの歩行すらできなかったほどである。ただひとつ,胃腸の障害だけはいまだに経験したことがないけれど。
わかいころわたしは,老人というものはつまらぬことだけを話題とするもんだな,とおもっていた。かれらは,あつまればすぐにこんなことをいう──“どうですか,このごろ身体のぐあいは”。“ああ,それには漢方薬がいいですぞ”。“あそこの温泉はじつによくききますなあ”など,など。ほかにもっと重要な話題がありそうなものなのに,とわたしはおもった。学問のこと,芸術のこと,文化や政治のことなど,いくらでも重要問題はあるのに,どうしてそんな話ばかりするのか?わたしにはすこし奇妙だったし,いくらかおかしかった。ところが数十年後の今日,わたし自身もまた同年輩の友人たちと顔をあわせれば,しばしばそのような話をかわすことになった。そしてそんなことをおかしくおもったころの,わかい時代をおもいだす。
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