連載 認知症と仏教・第7回
社会的動物,人間
日髙 明
1,2
1NPO法人リライフむつみ庵
2相愛大学
pp.700-701
発行日 2020年7月15日
Published Date 2020/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.5001202159
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認定調査で取り繕う
認知症高齢者と一緒に過ごしていると,「そんなことできるの!?」とびっくりさせられることがたびたびある.
昨年末,入居者のキシタさん(82歳,男性)は認定調査を受けた.キシタさんの前に,調査員が座る.身体の動きを確認した後,調査員は今の季節を尋ねた.キシタさんは,寒暖の感覚が乏しい.時季に応じて衣服を調整することができず,真夏に厚着をしたりする.季節もわからないはずだ.そう思われたが,キシタさんは調査員の表情を読んでいた.「今は,そうですねぇ,春,夏……,う〜ん,秋,冬……」というように順番に季節を言葉にしていきながら,調査員の顔をうかがう.何度か繰り返して,結果,「冬ですかな」と答えた.メンタリスト顔負けのコミュニケーション術ではないか.続いて「今は何月でしょうか」と訊かれると,キシタさんはまた「う〜ん」と唸りながら,顔は正面を向いたまま視線だけをすばやく周囲にめぐらせる.手がかりを探しているのだ.キシタさんに対面する調査員の後ろの壁には,カレンダーが架けてあった.1枚に2カ月分の日付けが記載されている大きなカレンダーだ.それを見つけて,何食わぬ顔で言う.「11月か,12月でしたなぁ」.こういう具合に,キシタさんは記憶や感覚の欠如を器用に補おうとしていた.
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