看護婦さんへの手紙
看護と人間と社会
服部 文男
1
1東北大学経済学部
pp.13
発行日 1966年2月1日
Published Date 1966/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661912621
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けっして自慢できるはなしではありませんが,私はこれまでかなり長い闘病生活を経験してきました。戦前から現在にいたるまで,だいたい10年おきに入院生活をしてきたことになりますが,このあいだに,医療の学問・技術が進歩したこととならんで,やはり看護婦さんが大きく変ってきたことを痛感します。とくに最近では,はたらく婦人としての自覚が強くなってきていることがよくわかり,病人としての私には,まことにたのもしくおもわれるのですが,それと同時に,このような自覚をもたらした現実のきびしさを考えるときひとりの社会科学者としての私は,深い反省にかりたてられるのです。
戦前から戦争中にかけて,私は20歳だいの身をギプス・ベットによこたえていましたが,ほぼ同年輩の看護婦さんたちが,クリステイの「奉天30年」という岩波新書中の一冊をテキストにして読書会をつくり,このキリスト教伝道医師が明治のなかばから大正時代にわたる長いあいだ,献身的に中国の民衆のために奉仕した偉大な仕事をまなぶことを通じて,昭和の「暗い谷間」の時代に医療にたずさわるものの生きるべきみちを真剣にさがしもとめていることを聞き知って,一種の衝撃をうけました。やがて,私じしん,しだいに社会問題や経済問題に目をむけていくようになったのも,これがひとつの原因でした。
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