特集 終末期患者の看護
ベッドサイドから
暗中模索のなかの看護の本質
西村 咲子
1
1金沢大学付属病院
pp.25-26
発行日 1968年11月1日
Published Date 1968/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661914186
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はじめに
臓器移植,原子炉による核医療,押し寄せる近代医療の波は,雄大に熾烈に死の岩壁にたえまなく打ち寄せている。しかし人間が死ぬというきわめて現実的な事実もまた,ひたひたと冷厳に,岩壁を洗いつづける。人生の終焉,生死の渦巻きのなかに身をおく仕事こそ看護なのである。ここに終末期患者看護という題材を得て,私の病棟に数多い尿毒症を伴う腎不全患者の精神的看護に,スポットをあててみた。
人間の死の様相は千差万別である。急性死(ショック死)と,疾病にもとつくさまざまな死,前者は死への恐怖は少なく,後者は精神と肉体とで死との対決を必然的にしなければならないきびしい死である。終末期看護として,よく癌患者が取りあつかわれる。病名を絶対に知られてはいけない,癌と知った瞬間からが死との対決であると私たちはあらゆる工夫をこらし,病名を知らさないよう看護する。この常識的な一般看護が,腎不全と闘う患者には適用しないのである。彼らは病名を知り,明日の死を知り,かつ生きなければならないのである。こういう状態におかれた患者を,前終末期患者と呼称してもいいのではないか。
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