カンボジア看護紀行・1
首府プノンペンに着く
手柴 房子
1
1国立東京第一病院手術室
pp.86-87
発行日 1966年4月1日
Published Date 1966/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661912708
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カンボジアに魅かれて
南国の夕暮れは,かけ足でやってくる。地平線の彼方に太陽が沈み,まっ赤な夕焼が西の空を染めたかと思う間もなく,あたりは急に暗さを増し,月の光に浮出されたヤシの木々が,艶やかな葉を光らせて夜のとばりへと誘う。ほの暗いランプの光のみを唯一の頼りに生活する人々の夜は,太陽とともに臥し,太陽とともに目覚めて野良へと歩を運ぶ。この広大な田園の一隅に起居して流れ去った幾月かの日日。ヤシの木蔭でたむろしては話合った日本のこと,日本に帰る日を指折り数えては涙流したカンボディアの片田舎の生活。南十字星をあおいだかがやく夜空の星の群々が,今はすべで懐しくよみがえってくるようになってしまいましたが,この紙面をお借りして私の小さな追憶と経験をお話させていただこうと思います。
数年前カンボディアという国名を聞かされても東南アジアの一角に位するこの小国に対して単なる地理的存在しか認めなかったでしょう私が,ある動機から東南アジアに興味をもちだしたのは,もう4〜5年も前になるでしょうか。またおぼつかない知識のなかから私をとらえて放さなかったのは,世界の七不思議の1つと数えられるアンコールワットの物語でもあったでしょう。
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