講座
病人心理学概説
賀川 豊彦
pp.26-29
発行日 1954年6月15日
Published Date 1954/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661909576
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慢性患者は神経衰弱症にかかつている
昔から日本では「病気」という言葉が「病」という言葉と平行して使われている。生理的疾病も慢性になると,半分以上は神経衰弱にかかつている。だから病「気」というのはあたつている。
結核にやられた人でも,最初は脂肪を消耗し,次に筋肉を失い,第三段階に於て,神経纖維迄細くなる。その結果は慢性神経衰弱がはなはだしくなり,取りこし苦労をしたり,一種のヒステリー患者のようになつて,精神に甚だしい動揺がおこる。その結果自殺をしたり常軌を逸したり,必要以上に悲観的になつたり,反社会性を帯びてくる。日本の国立病院に唯物的暴力革命の思想が,ヒステリーのように広まつて行くのは,この結核患者の間にある反抗的な神経衰弱性から来ているのである。病苦による自殺を統計によつて調べると次の如き恐るべき事実が発見される。これによつてもわかることだが,毎年日本には約17,000人位自殺している。自殺未遂を入れると約2万人に近く死んでいる。自殺者の約2割は病苦を悲しんで自殺する(国家地方警察本部「犯罪統計書」「昭和27年度参照)。昭和25年日本に於ける死亡者の実数は908,801人であつた。その年,病苦で自殺したのは3,572人であつた。だから死者1000人に対して4人弱の者は病気を苦にして自殺したのであつた。
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