看護婦さんへの手紙
病人からのお願い
壼井 栄
pp.13
発行日 1964年9月1日
Published Date 1964/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661912348
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一昨々年から,ぜんそく持ちになった私は,ある時期になると入院しなければならないほどひどい発作におそわれ,入院と外来をくりかえしています。ということは,年がら年中お医者さんや看護婦さんと仲よし,ということになります。仲よしになってみて気がつくことは,看護婦さんという仕事が,どんなに大変かということです。女の職業の中で看護婦さんほど自分の感情を殺さねばならない仕事はまずないのではないでしょうか。対手が病人だということで腹が立ってもそれを顔に出せない。うれしくてもまた同じことでしょう。重病でうなっている人のところで,浮々などできないからです。といって,感情を押えすぎて哀楽を顔に出さなすぎても,患者にとってはそれが冷たく感じられたりして,不平のもとになったりするかもしれません。幸い私の場合は,そんなことはほとんどありまんでしたけれど,昨年,身内の若い者が癌で入院していた時には死期が近ずくにつれて,まったく,申しわけないほど看護婦さんに当り散らすのを,目の前で見せつけられ,わびる言葉もありませんでした。そのときの看護婦さんの,臨機応変ぶりには,はたの者は感謝で胸いっぱいなのに,病人にとっては,その一つ一つの気働らきまでが癌の種になるらしく,時には虫けらをはたき出しでもするように,出ていけッ!などと,病人とも思えぬ大声でどなるのですからそばにいるものはたまりません。
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