研究と報告
病人の心理を理解すること
齋藤 道代
1
1滋賀県立成人病センター
pp.579-584
発行日 1990年6月1日
Published Date 1990/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661900147
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病むと人間の関心は,自分自身に向けられ,周囲のことより自分自身の中へ集中するようになる.したがって,そのまま放っておくと,病気は人間を自分の枠の内だけの,内的世界に閉じ込めてしまう.病人と健康人との違いは,病人は内的世界に生きているということである.つまり病気になったその時から,人は今まで生きてきたのとは別の世界を一人で生き始める.しかし人間は誰も,一人ぼっちになりたいと思ってはいない.この世の中で誰ともつながっていないことを確認したとき,人は自殺するとさえいわれている.
病人の心理を理解するには,まずこの病人の内的世界へまで届く働きかけを行なうことである.内的世界に生きる病人の心に向けてメッセージを送り続けて,病人の心の反応に耳を傾けることである.メッセージは,言葉によるものだけではない.四肢や五感を活用し,肉体や感覚を媒介にして病人の心に向けて働きかける.そして病人がそのメッセージを受けとめ,送り主の存在を認めた時,初めて看護者は病人の心理を知ることができる.
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