特集 地域の診療所で働く
地域で働いたこの10年—私にとって助産婦という職業は
村田 千代子
1
1エンゼル病院
pp.965-970
発行日 1986年11月25日
Published Date 1986/11/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611206997
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助産婦の道へ
今思えば,私にとってこの道との運命的な出会いが4歳の頃あった。まだ戦争中の頃であった。防空壕の中で大きなお腹の女性が腰をかがめて,ウンウン唸っていた。その頃は,その姿が今からお産をする人だと知ろうはずもない。しばらくして周囲が騒がしくなり「産まれる…!」と女の人の大声がし,何分もたたないうちに「オギャー,オギャー」と産声があがった。私は2歳の妹の手を無意識に握っていた。
母は助産所を営んでいたので,「先生いますか?」と慌ててかけ込んで来る人が大勢いた。幼いころの私は何もわからないままに「何分おきですか」「血は出ていますか」「お水はおりていますか」「腰をもんでやってください」「お湯を沸かしていますか,沸かして待っててください」などと答えていたとのことで,今思えば恥ずかしくなるが,その頃は聞き真似をして周囲の人々を驚かしていたらしい。
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