Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
マンゾーニの『いいなづけ 17世紀ミラーノの物語』—ペスト塗りと魔女狩り
高橋 正雄
1
1筑波大学
pp.1150
発行日 2022年9月10日
Published Date 2022/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552202624
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イタリアの国民的作家マンゾーニ(1785〜1873)が1827年に発表した『いいなづけ』(平川祐弘訳,河出書房新社)には,1630年にミラノで猛威を振ったペストの惨状が描かれているが,この年,1日の死亡者が1,200名から1,500名に達し,ペスト流行前には25万人を超えていたミラノの人口は6万4千人弱にまで減少したという.「いつも目の前に死体の山が築かれて,死体がいたるところに転がっていて,歩くと死体を踏んづける,という有様になると,町全体が死体置場の相貌を呈してくる.そうなると互いに相手を罵り合い,疑心暗鬼に走る様は際限がなくいよいよもって悲惨,不吉な状況を呈した」.
そんな心理的・道徳的にも荒廃した状況の中で,ミラノの街には「ペスト塗り」の噂が拡がった.それは,ヨーロッパ各地の民間伝承として存在していたもので,「毒物や魔法でペストを拡めようとする連中が,あるいは伝染性の毒物を用い,あるいは妖術を弄して,伝播させている」という噂だった.
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