Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
夏目鏡子の『漱石の思ひ出』—躁的な要素
高橋 正雄
1
1筑波大学
pp.810
発行日 2019年8月10日
Published Date 2019/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552201729
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夏目漱石の妻・鏡子が昭和3年に発表した『漱石の思ひ出』(改造社)に漱石の幻覚や妄想などさまざまな精神症状が描かれていることは周知の事実であるが,そうした漱石の症状に関する記述で注目されるのは,漱石に躁病とは言わないまでも躁的な要素があったことをうかがわせる記述である.
たとえば鏡子夫人は,明治36年暮ごろの記述の中で,漱石が病的になる時の前兆として顔面の紅潮を挙げて,次のような証言をしている.「あたまの悪くなる前には,まるで酒に酔払ったように顔が真赤に上気するのです」,「子供たち迄上の方の娘などはそれを知って,いくら前の晩ににこにこしていても,顔がゆだったように火照っている時には,それ明日は又と警戒しています。ときまって翌朝になると,がらりと雲行が変わるのだから不思議です」。
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