Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
夏目鏡子の『漱石の思ひ出』—漱石の胃潰瘍と逆流性食道炎
高橋 正雄
1
1筑波大学人間系
pp.792
発行日 2018年8月10日
Published Date 2018/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552201400
- 有料閲覧
- 文献概要
明治38年に発表された『吾輩は猫である』の冒頭には,漱石の分身的な主人公である中学教師の苦沙弥が胃病・胃弱のためにタカジアスターゼを服用する場面があるが,漱石の胃病が本格的に悪化したのは明治42年頃のようで,鏡子夫人が昭和3年に発表した『漱石の思ひ出』(改造社)の36章には,「この時分から段々胃が本式に悪くなって行ったものらしいですが,痛んで来ると自分では懐炉かなんかで暖めておいたらいい位にしか考えて居なかった」という記述がある.また,翌43年の状態についても,37章に「次の年になりましてから,胃の工合が益々いけません」,「始終痛む様子ですが,やっぱり手当はいい加減なその場限りで,ありきたりな胃病の薬をのんで,通じでもつけとくといった手軽さです」と記されていて,漱石は自らの病をそれほど深刻に考えておらず,自己流に対処するだけで,なかなか専門医を受診しなかった様子がうかがえる.
それでも,この年の6月になると,鏡子夫人らの勧めもあって東京・内幸町にあった長与胃腸病院を受診するが,その結果,便中の出血が確認されて胃潰瘍の診断を下されている.
Copyright © 2018, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.