Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
夏目漱石とモンテーニュ—アロマテラピーの先駆者
高橋 正雄
1
1筑波大学
pp.792
発行日 2023年7月10日
Published Date 2023/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552202885
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明治42年に発表された夏目漱石の『それから』には,花の香りによる精神的な鎮静というアロマテラピーを思わせる記述がみられる.
この作品の主人公・代助は,外界から痛烈な刺激を受けると日光の反射さえ耐えがたくなるほど敏感・繊細な青年だった.強い刺激を受けると代助は,世間との交渉を稀薄にして朝昼構わず寝る工夫をするのだが,その時彼が用いる花の香りを利用した鎮静法は次のようなものであった.「その手段には,極めて淡い,甘味の軽い,花の香をよく用いた.瞼を閉じて,瞳に落ちる光線を謝絶して,静かに鼻の穴だけで呼吸しているうちに,枕元の花が,次第に夢の方へ,躁ぐ意識を吹いて行く.これが成功すると,代助の神経が生れ代った様に落ち付いて,世間との連絡が,前よりは比較的楽に取れる」.
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