Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
夏目漱石の『坊っちゃん』—願望充足的な作品
高橋 正雄
1
1筑波大学
pp.646
発行日 2025年6月10日
Published Date 2025/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.038698220530060646
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明治39年4月に発表された『坊っちゃん』は,漱石が英語の教師を辞めて作家になりたいと考えていた時期に,その思いを主人公に代行させるような形で書いた願望充足的な要素を有する作品である.
『坊っちゃん』は,明治39年3月中旬から下旬にかけてわずか10日ほどで書き上げられたというが,『坊っちゃん』を発表する前年の明治38年4月7日の大塚保治宛書簡には,当時東大や一高で教師をしていた漱石が,「僕は今大学の講義を作って居る.いやでたまらない.学校を辞職したくなった」,「学校の講義より猫でもかいて居る方がいい」と,教師を辞めたいという思いを記している.また,同年7月16日の中川芳太郎宛書簡にも「先達日本新聞がきて何でも時々かけといふから.僕もつくづく考へたね.毎日一欄書いて毎日十円もくれるなら学校を辞職して新聞屋になった方がいゝと」とあり,翌7月17日若杉三郎宛書簡や9月17日の高浜清(虚子)宛書簡にはそれぞれ,「僕米が食えれば教員をやめて明治の文士とすます所です」,「とにかくやめたきは教師,やりたきは創作」と記している.
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