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はじめに
近年,本邦でも欧米と同様に糖尿病(diabetes mellitus;DM)の罹患率増加や高齢化に伴い,末梢循環障害(peripheral arterial disease;PAD)による重症下肢虚血(critical limb ischemia;CLI)を原因とした下肢切断が著しく増加している.現在,日本の人口は1億2,642万人,65歳以上の高齢者は3,557万人であり総人口に占める高齢者人口の割合は28.1%となっており,過去最高を更新している1).1980年代以前の下肢切断原因は外傷や腫瘍であったが,1980年代以降その原因は高齢化の進行に伴いDMやPADが過半数を占めるようになった.高齢者が人口の25%を占める兵庫県淡路島(調査当時.現在は高齢者人口の割合が34.4%2))において橋本ら3)が行った調査では,下肢切断の原因の85.7%をPADが占めると報告しており,また北九州市におけるOhmineら4)の調査では,下肢切断の発生割合は人口10万人あたり5.8人でPADを原因とした下肢切断が全体の77.8%,65歳以上の高齢者においては83.5%と報告している.このように,近年の下肢切断者は高齢,かつDMやPADをはじめ多くの合併症を有し,義足の適応,ならびに義足リハビリテーションやリハビリテーションゴール設定が困難であることも少なくないと思われる.
下肢切断における切断高位の決定について,過去においてはPADによる下肢切断術の第一選択は,大腿切断において一期的治癒率が高いことやPADに対して下腿切断術を行った場合の創傷合併率が高いこと,さらには下腿切断術後の大腿切断への変更率が比較的高いといったことにより,大腿切断術が第一選択とされていた.しかしながら,一般的に大腿切断の義足歩行獲得率は下腿切断に対して非常に低い.特にPADを原因とする下肢切断においては,9〜20%と厳しい結果であったと報告されている5-7).義足訓練に関して多くの経験を有する兵庫県立リハビリテーション中央病院(以下,当院)でも,60歳以上の膝関節より近位での下肢切断者に対しての義足歩行獲得(独歩または1本杖で100m以上の連続歩行可能)率は68.8%であった8).一方,PADによるCLIに対しては集学的治療の実践,すなわち血行再建術の積極的な実施,機能面を考慮した膝関節温存の重要性の認識の高まりなどにより,近年は下腿切断の割合が増加傾向にある9-11).
以上のことを考慮すると,PADによる下腿切断患者に対し適切なリハビリテーションを提供することは,切断者に対するリハビリテーションのなかできわめて重要な位置を占めるといってよいであろう.一般的に切断のリハビリテーション経験が十分な病院や医師・医療スタッフは少なく,下肢切断のリハビリテーションに関しては,まず下腿切断に対して確実な義足歩行獲得をめざすのが重要である.大腿以上の高位切断については,義足の適応の有無を含めて専門的経験のある病院で行うか,または十分に相談することを勧める.
本稿では切断後の義足リハビリテーションにおいて前半部分の要である断端ケアに関し,従来型の方法と最近の方法について当院の経験を加えて解説する.
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