Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
川端康成の『山の音』—MCI(軽度認知障害)者の心理
高橋 正雄
1
1筑波大学人間系
pp.182
発行日 2019年2月10日
Published Date 2019/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552201565
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昭和24年から29年にかけて発表された川端康成の『山の音』(新潮社)には,信吾という62歳の初老の男性が自らの記憶障害に悩む場面があって,物語の冒頭では,信吾と息子・修一の間で,次のような会話が交わされる.「このあいだ帰った女中,なんと言ったっけな」,「加代ですか」,「ああ,加代だ.いつ帰ったっけ?」,「先週の木曜ですから,5日前ですね」,「5日前か.5日前に暇を取った女中の,顔も服装もよく覚えてないんだ.あきれたねえ」.
信吾は,半年間家にいた女中の顔も名前も服装も思い出せないほど,記憶障害が進んでおり,しかもそのことを自覚して,「軽い恐怖」を覚えているのである.
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