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川端康成「古都」の冒頭
長谷川 泉
pp.52
発行日 1963年3月1日
Published Date 1963/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663904349
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「朝日新聞」の連載小説で単行本にもなった川端康成「古都」はいささかつくりものの感じの強い小説だが,「雪国」「山の音」「千羽鶴」などと同じような系譜にある川端世界の展開された作品であることには間違いない。単行本のあと書によれば,作者川端康成は京都にあって睡眠薬を連用し,夢うつつの裡にあってこの小説を執筆したという。そのためか,のちに作者は医療を受けるために入院生活を送ったのである。
「古都」は千重子と苗子というふた子の姉妹の物語である。しかも千重子は捨子であった。運命はふた子の千重子と苗子の問をさき,現在では千重子の方が裕福な家に拾われた身分の相違がある。運命のいたずらめいたものを感じさせる。千重子と苗子は,のちに偶然の機会から相会うことになるのだが,ふたりはいっしょになれるかどうかわからない。千重子に恋する青年が,ふた子であるがゆえに千重子と苗子を間違えて苗子との接触の機会を持ち苗子に求婚する。苗子は,その求婚が千重子への恋情の幻をおのれに見ているものだと思うから,容易には受け入れかねている。一方千重子の周囲には幼ななじみと,その兄のふたりの結婚相手がいる。そのような複雑な対人関係のもつれがあるのだが,「古都」の世界はそのような人間関係のあやを秘めて,四季の京都の風物詩を背景に無心に展開されてゆく。
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