東西詞華集
雪國—川端 康成
長谷川 泉
pp.36-38
発行日 1952年1月10日
Published Date 1952/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200218
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「雪國は」川端康成の傑作であるばかりでなく,おそらく近代日本文學の抒情小説の古典とも評することの出來る作品であろう。
横光利一と並稱されたこの新感覺派の曉擦は,自ら「藝術家の病み弱まつた血」と呼ぶ異常な稟質を享けて作家的成長をとげた。泉鏡花や川端康成などという作家は何百年に1人出るかどういというような特異な才能を持つた作家である。川端康成は初期の「伊豆の踊子」や掌篇小説の頃から一貫して,豊な抒情性の申に生きて來た。しかし,その抒情性は,そこいらにころがつているような甘美な薄手なそれではない。彼の抒情性は剃刀の刃で作られた造花のように鋭い。しかしひややかではない。彼の抒情性は心理の陰翳をあまねくとらえて割り切られた冴えを見せている。しかし心理の動揺を追うぎすぎすしたつめたさはない。彼の抒情性はおゝらかな東洋的な諦念や虚無につらなる悟りの匂いを持つている。しかし西洋的な知性を背景とした近代性を失つてはいない。
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