教養講座 小説の話・20
川端康成の「雪国」
原 誠
pp.50-52
発行日 1958年5月15日
Published Date 1958/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661910605
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新感覚派というとまず横光利一があげられ,そして川端康成の名がつづいて登場してきます。煩わしさをいとわず,新感覚派の文学運動をはじめた人々の名前を全部ここに書きしるしてみますと,伊藤貴磨,石浜金作,川端康成,加宮貴一,片岡鉄兵,横光利一,中河与一,今東光,佐々木茂索,佐々木味津三,十一谷義三郎,菅忠雄,諏訪三郎,鈴木彦次郎の14人です。このうち私たちのよく知つている名前は,やはり横光利一と川端康成の2人だけということになるでしよう。今東光とか中河与一とかいう名も,「お吟さま」「春泥尼抄」,「天の夕顔」「探美の夜」などの作品で知らないわけではありませんが,しかしそれは最近になつてわずかにジヤーナリズムをさわがしているにすぎません。新感覚派がうまれた大正13年から今日にいたるまで,さかんに文学活動をつづけてきた人は,死んだ横光利一を除いたら,やはり川端康成しかいないということになります。
ところで川端康成と新感覚派との関係,いいかえれば,川端康成という入は新感覚派の文学運動のなかでどんな役割をしてきたか,ということになるでしよう。前号でも述べたように,彼もまた,自然主義以来のわが国の平板な文学表現に反撥して,新しい感覚的な修辞のなかに小説の真実をこころみようとしたわけです。古いものに対する順応や模倣でなくて,新しいものの創造をまず表現上の技法にとめたものでした。その点では,まさに新感覚の人でした。
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