Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
川端康成の『狂った一頁』—精神障害の妻
高橋 正雄
1
1筑波大学人間系
pp.264
発行日 2015年3月10日
Published Date 2015/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552200176
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大正15年7月に発表された『狂った一頁』(『川端康成全集第二巻』,新潮社)は,川端康成が書いた唯一のシナリオで,同年9月に衣笠貞之助監督の手で映画化されているが,この作品は,鉄格子が目立つ大正期の「脳病院」を舞台にしているという点で,精神医学的にも注目される作品である.
この精神科病院の小使は,誰にも知られることなく,秘かに自分が勤める病院に妻を入院させていた.彼は時折,妻の病室を訪れては,そっと柏餅を差し入れたり,他の患者からの暴力を防いだりして妻を守っていたが,既に彼のことを認識できなくなっている妻は,彼の好意を無表情のまま黙って受け取るだけだった.この小使には,かつて船員をしていたころ,妻を虐待したり,妻を捨てて放浪したという負い目があったのである.
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