文学
美しさと醜さと—川端康成の文学
平山 城児
1
1立教大学文学部
pp.70-71
発行日 1964年3月1日
Published Date 1964/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661912189
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先日,ある文学好きな女性と話していたとき,たまたま川端さんの文学の話になった。1月号の『文芸』に500枚の長編「ある人の生のなかに」を,川端さんが発表していたからである。それから川端さんのいろいろな作品のことが話題になった。私も大分よんでいるが,その人も負けず劣らずよんでいて,話ははすんだ。おもしろいことを彼女はいった。「川端さんはおよそ私小説を書かない作家だけど,作品に書く女の好みは私小説的ね。あたしが女だから特に感じるのかも知れないけれど川端さんは美しくない女性には,ひどく冷酷なようで,こわいみたい。そりやあ,だれだって,男は美人の方が好きでしょうけれど,それにしても,川端さんは,特別にその好みが激しいようね」—そういったが彼女は決して不美人の方ではないのである。
女の美しさを描き出すという点では,川端さんは高く評価されて来ている。川端さんの作品に出てくる女性は,それぞれ一度よんだら忘れられないような女性たちである。それに反して,川端さんの描く男性たちは,あまり魅力がない。「雪国」の島村にしても,駒子があれほど惚れる値打ちのある男性かどうかは,ひどく疑問である。まったく,川端さんは女の作家である。
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